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植物が外部刺激に応じて成長運動や旋回運動を示す現象を屈性、動物が外部からの刺激に向って運動を起す性質を走性と言います。そしてその二つを合わせて趨性と言います。『建築の趨性』とは建築や都市、空間がなんらかの外的刺激に応じて内的欲求から自らを変容していくようなことを言います。

私が住んだことがある香港は世界トップクラスの人口密度を誇り、東京23区の2倍弱の面積に700万人以上の人々が生活しています。土地の7割強は山岳地帯であり、残り2割強の可住地面積当たりの人口密度は東京の2倍を超える超過密都市です。限られた可住地内で人々は高層住居ビルを立ち上げ、その姿は木々のよう立ち並んでいます。ここで特徴的なのは住居ビルの表面積がとても大きいことです。香港の住居ビルの平面形は四方八方に伸びた十字形やY字型、ロの字型などをしたものが多く、さらに各戸の開口部も出窓となって少しでも表面積を増やそうとしているものあります。強者はさらに洗濯竿を伸ばしたり、自作の棚や庇を増設したり…。

これは生物で言えば、「趨性」とも言える性質であり、四周を海に囲まれ、さらに山々の自然に隣接した高温多湿である香港の気候風土と高人口密度が、住居に採光や通風を求めさせた結果だと思われます。

また香港には、世界有数の金融市場であるという側面があり多人種のビジネスマンが交錯する商業都市でもあります。しかしそんな都市的な生活とは対照的なバラック的存在が都市の中心地に棲息しています。香港の都市構造では都市の中心部と地方の周縁部が織り重なりノンヒエラルキーな状態で存在しています。それは可住地の狭さから平面的に広がるという住み分けができず、中心と周縁という二極化ではない方法で両者がスーパーインポーズされた複雑系という在り方に必然的に向かったということだと思います。

全面ガラス貼りの近代的な建築の足元に果物や軽食、土産を売る屋台がひしめき合っている、そんな超現実主義の絵画のような世界が展開しています。経済の欲求に応じ床面積と眺望を求め空に伸びた商業ビルの足元を縫って、バラック群が街の活気を求めて連なっていく。それは人の集中する魅力的な場所に向かって形態が繁殖していく『建築の趨性』と言えます。アジアの気ままな精神をそのまま取り入れることはできないかもしれませんが、居住者が自分らしさを広げられる「空間的伸びしろ」には多様な可能性があります。

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建築の趨性

architectural course of nature

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