
ハッピーウェザリング
03
happy weathering

白い壁、光る床、完成したばかりの場所には凛とした美しさがあります。しかしその美しさは一瞬のもので、できあがったものはその瞬間から時間の中に置かれ風化の道を歩み始めます。完成することに主眼を置いた計画では、完成した時が一番美しく、興味深く、愛おしいものかもしれませんが、それ故に時間の経過と共にその全てが色褪せていきます。それは永久凍結された瞬間的な美であって恒久的なものではありません。
現出したすべてのものは時間の評価の中に入ります。時間を味方にするような価値観がなければ刹那の評価の中にすべての結果を押し込めて、あとはただその喪失を惜しむばかりとなります。時間を取り込めるような創造とは変化を楽しむことです。経年変化を楽しめる素材を使ったり、変化に合わせて部分的に変更できるような工夫を予め内包させておいたり、また地域の気候風土や文化歴史に依るすでに時間的評価を超えているようなコンテキストを読み、寄り添うことができれば自らもその中に身を置くことができるかもしれません。そういったハード・ソフトの両面から時間にアプローチすることで幸せな変化と共に過ごせると思います。
それを私は『ハッピーウェザイング』と呼んでいます。どこかハッピーウェディングと似ている響きですが、幸せな風化とはまさに、幸せな出会いがなければ成し得ません。人と素材、人と風土、人と歴史などとの出会い、そして強い結びつきがなければ長い時間の中でお互いが良好な関係を続けることはできません。人から見放された場所はあっという間に寂れてしまいます。互いの支えがなければ互いに滅んでしまいます。 愛情をもってメンテナンスをした場所は、良い老け方をしていきます。そしてその良い風情に人は癒され、またその場所を大切に扱おうとします。この好循環が場所の価値を普遍的なものへと変えていきます。 情報が社会を加速していく現代、その速度を追随できない空間は逆説的に身体と共にあることを問われていると思います。デバイスとソフトウェアの関係のように更新されるものとその基盤となるものという関係があります。基盤としての建築とはより家具的になり、より身体にフィットした在り方であると思います。既存の時間を過ごすためだけの場所ではなく、一歩進んで時間を刻む場所として、人との接地面が多い空間を 考えることに快適な空間の可能性があると思います。
All Photo by HASHIMOTO TSUYOSHI
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