
乱れの破片
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piece of disturbance

小さい頃、夏休みは毎日のように川に泳ぎに行っていました。川には、流れの速いところ遅いところ、深いところ浅いところ、温かいところ、冷たいところなどの様々な変化に富んだ場所がつまっています。それは川の形状や、岩々や木々の位置などの散りばめられた要素から生まれるもので、それらを頼りとして思い思いに楽しむことができます。泳ぎ疲れれば岩に掴まり、暑くなれば木陰の中に浮かぶ。川にはいろんな拠り所があります。水中という不安定な場所で、私達は安定できる場所を探す力が増しているのかもしれません。
自然界には気流や水流の流れに起こる乱流という流れがあります。一律の流れを持たず、回転や蛇行を含む乱れた流れのことを乱流と言いますが、自然界で見られる空気の流れや、工業製品に応用される流れはとはほとんど乱流であり、層流と呼ばれる乱れのない流れのほうがむしろ例外的です。この乱流は、乱れた流れによって抵抗を増し物質が移動するのを妨げることで移動エネルギーを増加させることから、省エネルギーで移動したい自動車や新幹線などの車両系では好まれず、それらでは乱流を抑えて空気抵抗を小さくするような流線的なデザインが目指されています。しかし同じ空気抵抗を嫌い流線型の形態を特徴とする飛行機では全体形としては乱流を抑制しつつも翼部においては、翼面から空気が乖離し飛行が不安定になるのを避けるための工夫として、タービュレーター(乱流翼)と呼ばれる突起物を翼面に設けています。意図的に乱流を発生させることで翼に巻きつく渦の風を発生させ空気の乖離を遅らせることで飛行の安定化を実現しています。
僅かな突起を使い、空気を留めるために小さく乱す。この留めるために乱す、というような一つのシステムは人が流動する空間の中での居場所をつくる手法にもなります。
壁や柱といった空間構成の要素に小枝のような少し張り出す袖壁を出すことで、平滑な面だけでは発生しなかった人の流動や意識のちょっとした乱れを生みだします。この乱れが空間の中で滞留の端緒となり、自分の居場所を見つけるための目印となります。タービュレーターを建築に応用したこの小枝の壁を、場に滞留を生む『乱れの破片』として適度に配置することで、取りつく島がなくよそよそしい場所ではない拠り所のある居場所が現れます。それはまさに川を取り巻く要素に似て、必要とする人の発見によって自分の居場所となり得ます。
All Photo by HASHIMOTO TSUYOSHI
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